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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)835号 判決 1965年2月05日

上告人 玉木栄吉

被上告人 宇都宮税務署長

主文

本件上告棄却す。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人新江昇の上告理由について。

論旨は、原判決が上告人には本件更正処分の取消を求める法律上の利益がないとしたことが本令の解釈適用を誤つたものである、という。

本訴請求は、上告人が妻キヨの代理人として同人の昭和三二年度における事業所得税の確定申告をしたにもかかわらず、被上告人税務署長がこれを上告人自身の所得税の確定申告と誤認し、さらに上告人には、給与所得、譲渡所得の申告洩れがあると認定して、上告人に対してなした申告税額を更正し過少申告加算税額を徴収する旨の本件更正処分は、その前提要件としての上告人自身の確定申告を欠くものであるから違法であると主張し、右処分の取消を求めるものであること記録上明らかである。

しかし、過少申告といい無申告といい、ともに申告義務違背であつて、いずれに対する加算税も、その本質においては変わりはないものと認むべきであり、また無申告加算税の方が過少申告加算税よりも多額であることは明らかであるから、無申告の場合に誤つて過少申告による更正処分をしたからといつて、これにより納税義務者が不利益を受けるものでないと解すべきである(昭和三七年(オ)第七九〇号、同三九年二月一八日第三小廷判決参照)。そして、原判決の確定した事実によれば、所論事業所得の実質的帰属者は上告人自身であり、また、上告人には前記、更正処分に表示されたとおりの給与所得および譲渡所得があり、以上の所得につき上告人は確定申告をした事実がないというのである。されば、本件更正処分が仮りに違法であるとしても、上告人は、これによつて不当に権利を侵害される虞れはないから、右処分の取消を求める法律上の利益を有しないもの、といわなければならない。

されば、叙上と同趣旨に出た原判決は、正当であつて所論の違法はなく、論旨は、これに反する独自の見解に立脚するものであり、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 山田作之助 草鹿浅之助 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人新江昇の上告理由

一、原審判決は上告人において提出した確定申告書は上告人が妻の玉木キヨを代理し同人の名で提出したものであり、上告人の確定申告書の提出はなかつたわけであるから、同条第一項による更正処分をなすべきでなかつたことは明らかであるから、被上告人が上告人に対し更正処分をしたことは違法であること断定したが一転して無申告の場合の方が更正処分より納税額が多くなるし本件の実質に入つて調べて見るのも事業所得の帰属は玉木キヨに非ず上告人であることから見てもそうなるのであるから上告人は更正処分の取消を求める法律上の利益なしとの理由で上告人を敗訴せしめた。

二、そこで、問題は、かかる場合上告人が訴を以て更正処分の取消を求める法律上の利益ありやなしやの一点に係つてくる。

三、上告人は従来より税務書の不公正な一方的な税金の徴収方法について不満を持つており本訴も自己の経済的利害を無視して税務署の在り方を正し一般民衆の利益を擁護せんとして本訴を提起したのである。

従つて第一審判決の言う如く政府が国民に対し所得税を賦課する場合においては、所得税法に従い適正に行うことを要するのであつて本件更正処分に不適法の瑕疵がある以上、その経済上の得失に拘わりなく上告人はこれが法律上の利益を有するものと言うべきである上告人は正にかかる処置を欲しておるのであつた。

然るに原審判決が右の不適法な処分であると云う点に重点を置かず便宜的な方法等のみに気をとられ(原審判決の言う通りなら税務署は上告人に対し更正処分を取り消し無申告処分をする労を省かれ又かくすことによつてその面子が立ち民衆に対する威厳が損はれずにすむことになる)上告人の経済上の得失と云うことを理由にして上告人の請求を棄却したのは遺憾であつた。

又、第一審判決の言う通り本件更正処分が取消された結果被上告人主張どおりの無申告決定がなされた場合においても上告人がこれを不当とするときはその実質的形式的瑕疵を主張して右無申告決定に対し再調査の請求をなし、或いは右処分の取消又は変更を求める訴を提起してその当否を争うことができたから必らずしも被上告人主張の如き不利益を蒙るものとは限らず従つて上告人が本件更正処分の取消を求める法律上の利益なしと云うのは当らないと云うべきである。

四、結局原審判決は更正処分を取消す利益なしとの理由を以て上告人の請求を棄却したが、これは正に民事訴訟法上の所謂訴の利益(権利保護の利益)の解釈を誤まり判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背ある場合に該当すると思料するので本上告趣意書を提出する次第である。

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